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どうも! パソコンです。

アップルがあまりに無邪気にウインドウズを叩くので、悪のりして アルト vs マック版を…*0



今は昔…。

アルト: どうも! パソコンです。*1

マック: こんにちは。マックです。

アルト: おっ、マックペイント。なに描いているの?

マック: hello!*2

アルト: hello?

マック: いいですよねぇ…、マウス操作!
     マックライトでは、ほら、対象部分を選択して…フォントも簡単に変えられます。
     カット&ペーストで編集も直感的だし、絵だって挿入できちゃうんですよ!*3

アルト: 暫定的ダイナブック環境には、さらにオブジェクト指向という考え方が貫かれていて、
     ワープロで選択したテキストのフォントを変更する要領で、文中の計算式の結果を得たり、
     お絵かきのような遊び感覚で、ソフトの仕組みを調べて自分用に作り替えたりできるんです。*4

マック: へぇ…。おぶじぇくとしこう…。私も、クールな機能がいろいろ付いてますよ。

アルト: ほぉ。たとえば?

マック: 計算機!(自慢げに)

アルト: ……。あとは?

マック: 時計!(やや心許なげに…)

アルト: ……。



*0 某巨大掲示板で見かけたのをちょっと改変しています。

*1 「パーソナルコンピュータ」はアラン・ケイの造語で、それが広まったとの説がある(具体的には、かの「ダイナブック」とともに 1972 年の論文「A Personal Computer for Children of All Ages」に登場する)。Smalltalk を OS として用いたときのアルトはとくに「暫定ダイナブック」と呼ばれ、彼の理想の「パーソナルコンピュータ」であるダイナブックの具体的なありかたを試行錯誤するためのプラットフォームでもあった。そのような背景が、ここでアルトにあえて「パソコン」と名乗らせることのおもしろみである。

ちなみに、アルトにはこの暫定ダイナブック環境以外にも複数の OS があり、初の GUI マシンとして有名な Star システムも大枠ではそのひとつ(他に GUI OS のたぐいとしては、Interlisp-D、Cedar がある)。ここで注意したいのは、同じゼロックスで同じアルト系ハードを使用していても、「ワークステーション」である Star システムと「パーソナルコンピュータ」である暫定ダイナブックシステムとでは、開発部門(SDD vs PARC)も、開発チーム(リドル vs ケイ)も、開発思想(大人のオフィス vs 子供の遊び場)も、内部構造(Mesa+Pilot vs Smalltalk)も、GUI のルック&フィール(タイル+ダイアログ vs オーバーラップ+ペイン)も、操作スタイル(マウスで選択→特殊キーで命令 vs 選択も命令もマウス主体)も異なるということ。

誤解されがちだが、マックのルック&フィールや操作スタイルに主な影響を与えたのはあくまで Smalltalk の GUI であり(これは Apple 関係者も 〜しぶしぶではあろうが…〜 公に認めている事実である)、けっして Star システムのものではない。(ただし、デスクトップのアイコンに象徴される Finder などに Star の影響を疑えることを除けば…である。もっとも、単なるファイラにすぎない Finder ではあるけれど、これを GUI のルック&フィールの要素としてどの程度重要視するかで意見は大きく分かれるだろう。個人的には Finder のようないちアプリの有り様よりはむしろ、システム全体に貫かれているウインドウの操作や、モードレスな編集スタイルの類似性に重きを置いているのであしからず)

その根拠としてはまず、学術成果として半ば公知であった Smalltalk と違い、Star は極秘裏に開発されていて、Apple の人たちはこれを発表まで見ることはおろか、その存在を知ることすら難しかったであろう…ということがある(Lisa 開発陣に加わった PARC からの移籍組はもちろん知っていたが、彼らが Apple サイドにそれを伝えることは禁じられていた)。知り得ないものを真似ることは、さしもの Apple にも不可能である(←ジョークですよ)。まじめな話、そもそも Star が発表される頃には Lisa プロトタイプへの Smalltalk GUI の要素の“移植”は、あらかた終わっていたので、Star の GUI(これすら Smalltalk GUI の影響下にある!)から、改めて GUI の基本を学ぶその必要もなかったといえる。「マックの GUI のルーツは Star である」といったありがちな誤解を信じている人は、おそらくは、このような当時の状況や時系列を見落としているに違いない。(しかし、このことは、必ずしもマックの GUI の細かな部分 〜たとえば Finder におけるアイコンの使い方やコントロールパネルの存在といったような〜 においても Star からの影響が“皆無”であったということを指しているわけではないので、念のため。)


*2 当時、マックペイントに感動した人なら、かならず一度は描いているはず(笑)。
Uploaded Image: hello.gif


*3 元のCMのコンセプト通り、これらマックが自慢げに語る機能はすべて、アルト(だだし、Smalltalk で動作する暫定ダイナブック)では、すでに古くから(ものによっては 1970 年代前半 〜つまりマックの 10 年前〜 には)実装されていて、当たり前(か、そもそも無用 〜たとえば、Finder や計算機のように〜 )の機能だった。

Uploaded Image: st76figure3.gif
1977 年(!?)のアルト(ただし、暫定ダイナブック環境)のスナップショット。オーバーラップするマルチウインドウ(この絵では隠れているが、スクロールバーやメニュー 〜 Smalltalk でこれらは必要なときポップアップする機構であった〜 もすでに存在)、マルチフォントなエディタ、ResEdit ばりのグリフの編集機能、日付表示付き時計、マックペイントもどきのお絵かきソフトが見て取れる。

GoogleVideo - Smalltalk 80
1980 年代に入ってからのアルトの映像。前のとは違うバージョン(次の世代)の GUI におけるマルチウインドウ、マックペイントライク(?)なお絵かき機能、マルチフォントなワープロやそこでのマックライク(?)な操作スタイルを追体験できる。

こうした情報を示すと、きまって Apple シンパは「GUI はアルトが初めてではない」(つまり、マックがアルトの模倣であることは認めるが 〜いや、アンタが認めようが認めまいが、これは事実なんだが…(^_^;)〜、そのアルトもさらに始祖的な GUI の 〜たとえばエンゲルバートの NLS の GUI の〜 パクりにすぎない…という意味)と開き直るが、もしそうならば、上に示した画像や映像ほど、現在主流の GUI の(つまり、マックやウインドウズの GUI の)要素を備えたシステムの“姿”を探し出してきてぜひとも見せて欲しいと思う(そんなものは存在しない)。

経過はどうあれ、結果的にマックは、アルトで試行錯誤のうえ培われた GUI に関するこれらのアイデアほとんどすべてを 〜そのまま、あるいは、形を変えて〜“継承”している。なぜだか Apple の発明だとまことしやかに語られることの多い、クリップボードやコマンドキーショートカット機能についても、その例外ではない。まあとにかく Smalltalk の歴史について知るようになると、1984 年のマックにあってアルトに対応するものがない機能を探すのは(ことによってはその逆よりも)難しいと思えてしまうくらい奥が深い。

だからといって、アルトが使い勝手においてことごとくマックを凌駕していたとか、マックにオリジナリティがまったくなかった…ということを言いたいわけでなく、Apple は、アルトの成果はそれで敬意を表しつつ、自らの成果については他にもっと自信を持って自慢すべきこと&自慢のしかたがあったはず…というのが今の私のスタンス。もしそうしてくれていれば、Apple にかような猜疑心や不快感を抱くことはなかったでしょうに…。美しいマルチフォントや直感的なカット&ペースト操作が、じつは Apple の“発明”ではない(つまり、有り体に言えば「騙された!」)と知ったときのひどい落胆は今も忘れられません(嘘)。


*4 暫定ダイナブック環境内のソフトウエアは、すべてオブジェクトの協調により動作するだけでなく、ユーザーは自由にその中身を調べたり、改変、拡張することができた(むしろ後者が重要で、いかにしてユーザーが遊び&学習のための試行錯誤を安全に 〜つまり、システムをクラッシュさせたり、再起動を必要とすることなく〜 可能とするような柔軟なシステムを提供できるかを意識して開発された)。また、文字の入力できる場所ならどこでも、Smalltalk コード(…といっても難しいものではなく、ここでは 3+4 のような、簡単な計算式程度のものを想定してほしい)を記述して、通常のテキストのカットやコピーの感覚での気軽な実行、つまり、選択して→評価(必要なら結果を挿入)が可能だった。

いってみれば、できあいの「時計」アプリを、より自分好みに改変することが可能かつ容易であったり、ワープロ中に計算式の結果を知るためにわざわざ「計算機」アプリを起動する必要もない「パーソナルコンピューティング」スタイルであり、開発者を「ユーザー」から排除して開発環境の使い勝手を考慮せず、また、プログラミング自体を「ユーザー」に開放しなかったマックとは、根底から目指すところの異なる「パーソナルコンピューティング」でもあった。

なお、アルトは言われるほど高性能ではなかったが(じっさい、部外者であるアトキンソンによれば、暫定ダイナブック環境の動作はあきれるほど遅かったらしい)、それより劣る Lisa やマックのハードウエアで同様のことを我慢できるパフォーマンスで実現するのは不可能と見た Apple の開発陣は、同様のしくみでマックを動作させることは諦め、GUI とそのルック&フィールの“移植”と“改変”に専心した(ファイルからアプリを起動する従来のソフトウエアの動作モデルは、副作用として、暫定ダイナブック環境ではほとんど出番のなかったファイラの進化型としての「Finder」の必要性を生じさせたりもした)。こうして作られた Lisa の後継の“マック”は、 後に、改めて Smalltalk のこんどは API に強い影響を受けて作られた OS X(NeXTSTEP)の採用をもって、ようやく表層だけでなく、内部まで暫定ダイナブック環境のある意味“ソックリさん”になれるわけであるが、それまでにまさか 20 年もの歳月が必要とされるとは、当時の誰も予想できなかったはず。


--sumim



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